『月葬刑』
PC数:1人
所要時間:オンセで3時間程度
<ハンドアウト>
PCのイキザマはハミゴである。
月葬刑――月への流刑を言い渡された地球の存在だ。つまりは重罪人なのだが、あらぬ罪で月葬刑となった「きらわれもの」である。
初期所有アイテムなし、クレジットなし。(罪人だから没収されている)
<シナリオ概要>
月葬刑。それは重罪人を月へ流刑する処刑方法である。
罪人は月面で最低限生存できる生命維持装置をつけられた簡素な宇宙服を与えられる。それには限られた量の酸素しかなく、体内に直接流し込まれる養分・水分もまた必要最低限だ。
罪人は何もない月を彷徨い、己の罪を悔いながら、じわじわと欠乏していく酸素や養分や水分に苦しめられつつ死んでいく……というものが刑の内容だ。
PCはあらぬ罪で月葬刑となった「きらわれもの」だ。
無人無音の月でたった一人、朽ちていくだけが命運だ。
徐々に衰弱していく最中、死神を名乗る存在と遭遇。
死の間際、PCは死神から「死神になれば命は助かる」ともちかけられる。
返答によってエンディング分岐。
※月は裏の世界か、表の世界か
裏でも表でもない。なのでスキルの「表or裏の世界で〜」とあるものは全て発動しない。
<オープニング>
月面で君は目を覚ます。
宇宙服越しに見えるのは青い青い――地球だ。
君は自分が月葬刑に処されたことを知っている。
周囲には誰もおらず、何も聞こえず、灰色の地面が広がるばかり。
一通りRPしてもらったところでシーンエンド。
<ミドルシーン>
▼シーン1
ふと、近くの地面に何かを見つけた。
それは朽ち果てた死体――自分と同じ宇宙服を着ている死体だ。
ヘルメットの部分から見えたその姿は、既に……。
……君もいつかこうなるのだろう。それは心を抉るような光景だ。
ショックに心が呑まれないように、精神防衛できるか否か。
(時に精神防衛とは自傷や幼児退行といった常識はずれなものである。狂気を以て狂気を制す、という意味でクレイジー上回り判定)
目標:クレイジー判定で4以上。
成功:なんとか取り乱さずに済んだ。
失敗:死、死、死!!! 自分の避けられない運命を突きつけられ、脳味噌から血の気が引いていく。立っていられない。ヤルキ-2。
なお死体の宇宙服の機能は停止しており、得られるものはなにもない。
▼シーン2
月での暮らしが漫然と続く。時計もなく、日没の時間も異なる月で、どれほどの時間がたったのかは分からない。
(ちなみに月の昼と夜は、地球時間でそれぞれ約15日である)
相変わらず空には青い地球が水を湛えている。
一方で君の生命維持装置から補給される水分や栄養も最低限で、死なない程度の空腹と渇きが常に付きまとっている。
冷たい水も、味のある美味しい食事も、もう二度と君は口にすることは出来ない。そう思い知らされる。
意識が、精神が、少しずつ削り取られていく。
こんな生き殺しの日があとどれぐらい続くのだろう?
と、遠くに何かが見える。
それは人間だ。だが……宇宙服を身に着けていない。この、月の上で。
GMへ:
死神の登場である。死神の性格、外見は自由に設定してよい。
死神を発見した際のリアクションはPCに「どうする?」と尋ねて好きにさせよう。
隠れる場合=平坦な月面で、隠れる場所などどこにもない。
逃げる場合=気が付けば死神が真後ろにいて、肩を叩かれる。
話しかけるなど=そのまま描写へ
戦闘をするなら以下のデータ。ただし戦闘は「これで満足か?」と1ターンで終わる。戦意や害意はないことを示し、描写を続ける。
これ以降のシーンで戦闘を挑まれた場合も同様。
【死神】
ヤルキ:35
クレイジー :4
バイオレンス:5
パラノーマル:0
特殊:
・アイテム【デスサイス】
このアイテム所有者が与えるダメージを常に+1。
・スキル【おぞましき呪い】
1ターンに一度だけ使用可能。与えられたダメージの半分(端数切捨て)を、攻撃してきた対象に与える。
・解説
夢か現か。
死神は好意的である。自らを死神と名乗る。
「まだ命を刈り取る時ではない」
「宇宙にだって死神はいるさ、死人が出るんだから」
「月にどれぐらいいるのかは数えてないから知らない」
あとはテキトーに「哲学者なの?」なり茶化していきましょう。
死神はPCについてくる。文句を言われようとも。
GMへ:
死神の正体は、月葬刑に処された人間である。
死神になれば不老不死になれるが、死神になったエリアから移動することができない(ここだと月)
なのでこの死神は死神として、月で狂いそうなほどの孤独の時間を過ごしていた。
死神が解放されて死ぬ時、それは死の間際の人間と死神の役を交代することである。詳細はクライマックスにて。
つまりこの死神の目的は、自らが死ぬ為にPCと死神の役を交代させることである。
なので死神は楽しい、自由だ、などと良さをアピールしていきましょう。
死神なんか楽しくない、というネガティブなことは言わないようにしましょう。
ある程度RPしたところで、死神から「アレはやったのか?」と問われる。
直後、PCのヘルメットにモニターが展開する。無機質なメッセージが流れる。曰く「被害者に謝罪の言葉を述べよ」という内容だ。
誠心誠意の反省を見せなさい、と機械音声が命令している。それは徐々に大きくなる。PCを急かすように。拷問のように同じ言葉が繰り返され続ける。
誠心誠意の謝罪があれば機械音声はピタリと止まる。
謝罪がなければ、
1d5→1親指〜5小指
1d3→1右手、2左手、3両手
の指が、宇宙服に仕込まれた装置によって切断される。
▼シーン3
月での暮らしが漫然と続く。
意識が、精神が、少しずつ少しずつ削り取られていく。
こんな生き殺しの日がまだ続くのだろうか。
死神と名乗る謎の存在はずっと付いてくる。
陽気に話しかけてくる。
「なんで月葬刑になったの?」
「なんできらわれものだったの?」
「人生楽しかった?」
「友達はいた? 恋人は?」
「それって本当の話? 夢でも見てたとかじゃなくって?」
などなど。ようは生きるのが嫌になってくるようなことを遠まわしにチクチク。
そんな風に死神と意味のない会話を繰り返して、時間が無意味に流れて。
君の苦痛は頂点に達しようとしていた。
飢えと渇きと精神的な負荷で意識は朦朧としている。
なにか、なにか助かる術はないのか……?
目標:バイオレンス判定で3以下。
成功:君の視界の果てに建物が見える。開発途中で廃棄された宇宙ステーションだ。
失敗:
何も見つけられない、何も思いつかない。絶望を思い知る。ヤルキ-2。
死神が「あれを見てみろよ」と彼方を指差す。見やれば、視界の果てに建物が見える。開発途中で廃棄された宇宙ステーションだ。
ひょっとしたら、万が一、億が一、地球に帰れる宇宙船や脱出ポットがあるかもしれない。
脱出ポットでなくとも、生命維持装置を上手く機能させる道具があるかもしれない。
そうしたら、助かるかもしれない。
この苦痛が終わるかもしれない。
▼シーン4
君は歩き続ける。
まるで砂漠のオアシスの幻影のように、宇宙ステーションに近付いたような実感はない。
目標:パラノーマル判定で3以下。
成功:
あの宇宙ステーションは死神の魔法による幻影であることに気が付く。心を蝕む絶望に、ヤルキ-3。
なお死神は「元気付けようと思ったんだ」と悪意のない様子である。
失敗:何も起こらない。
死神と名乗る謎の存在はずっと付いてくる。
陽気に話しかけてくる。
・人生で一番楽しかったことは?
返答はどうであれ
君は君の人生というものを見返してみるかもしれない。
なすりつけられたあらぬ罪。
守ってくれる人はおらず。
誰もが敵だった。一致団結したマジョリティにただただ慰み者にされた。
味方なんていなかった。
誰も手を差し伸べてくれなかった。
誰も理解してくれなかった。
誰も守ってくれなかった。
ずっと嫌われ者で、ずっと迫害されて、ずっと仲間はずれだった。
愛など自分の人生ではフィクションだった。
ずっと一人だった。
このまま、一人のまま、孤独のまま死ぬのだろうか。
気が付けば倒れていた。
もう地球も見えない。
<クライマックス>
倒れたヘルメットを死神が覗き込んでくる。
「死神になれば死なずに済むぞ」
「どうだ、死神になるかい?」
「質問しているヒマはないと思うぞ」
PCの選択の時間である。
死神になって生き延びるか。
このまま死に身を委ねるか。
GMへ:
死神の目的。
死神は死の間際の人間と役割を交代していく制度である。
古い死神は、対象に死神としての役割を引き継がせることで死ぬ(不老不死から解放される)。
この死神は、月で永劫の孤独を、それこそ気が狂いそうなほど繰り返していた。気が狂いそうなほど多くの人間の命を刈り取り続けた。全てがもう、飽き果てて無味乾燥なものになっていた。
ただただ無限の時間が苦痛でしかなかったこの死神の目的はただ一つ、PCに死神の役目を交代させて『死ぬこと』だ。
この死神も、かつて月葬刑に処され、死神と出会い、死に瀕したところで同じように選択を持ちかけられ、死神となった。
最初は死神となって永遠の存在になれたことを喜んでいたが、結局は月での無限孤独。地球に帰ることもできず、生き地獄。
<エンディング>
▽死神になる
死神が満面の笑みで微笑んでこう言った。
「ああ、やっと死ねる」
視界暗転。
月面で君は目を覚ます。
視界いっぱいに見えるのは青い青い――地球だ。
だが、宇宙服のヘルメットはもうない。
君は生身のまま月にいた。
なぜなら君は死神になって、死すらも超越したからだ。
今まで居た、あの死神はもうどこにもいない。
周囲には誰もおらず、何も聞こえず、灰色の地面が広がるばかり。
君は生き延びた。最早呼吸も食事も必要せず、苦痛は微塵も感じない。
押し付けられた死の運命を回避できたということは、自分を死なせようとしてきた連中への痛烈な復讐ではないだろうか。
ざまあみろだ。青い星に中指でも突き立ててやるといいだろう。
▽死神にならない
閉じていく意識の中で舌打ちが聞こえたような気がした。
そして、君の人生は幕を下ろす。
ゆるやかな冷たさ。
しかしそれはどこか心地いい。
そうだ、これでもう、苦痛を味わう必要はなくなるのだ。
嫌なことも苦しいことも、これで全部終わるのだ。
それはきっと――幸せなことだ。